はしがき 「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ」

 

 このところ急速に現行小選挙区制度に対する不信と不満が募ってきている。

 ある講演会場で、試しに現行制度の評価を問う挙手をお願いしたらその大半が現行制度に反対であった。

 おそらくその底流には、経済の劣化、社会の劣化、家庭の劣化など、劣化のオンパレードに有効な対応が出来ない政治への苛立ちがあるに違いない。

 特にその苛立ちは当然のように政権政党自民党に向っている。

 昭和三〇(一九五五)年一一月一五日、中央大学講堂での自民党結成大会以来、私はほとんど目を逸らすことなくその展開を注視してきた。

 六〇年安保のような政治的危機もあったし、ロッキード事件などの汚職による危機もあったが、その都度自民党は、指導者を換え、政策を換えて乗り切ってきた。

 だが、今回の裏金問題に発する自民党の危機はかつてなく深刻なものだ。一部の特定の政治家を処分して済むような軽い不祥事ではない。現在の自民党の構造と体質から滲み出てきた膿のようなものだろう。

 国民・有権者からすると、地に墜ちつつある国会、政党、内閣を生んだ自らの責任を問い、小手先の改革ではなく現在の政治の大転換を期待するのは当然だろう。

 今回の裏金事件は、単に岸田文雄政権に退場を求めるものではなく、自民党に見切りをつけるほど深刻だ。そして、それでもなお、野党に対する期待がふくらんで来ないのが痛ましい。

 有権者は起きた問題のあくどさに怒るばかりか、それに対する対応の甘さが怒りの火に油をそそいでいる。

 岸田首相の認識の甘さに対する世論の失望は世論調査にはっきり表れている。

報道の調査(四月二三日朝日新聞)によると、発覚後数ヶ月を経て、実態が「解明されていない」と答えた人は何と九二%、「解明された」と答えた人はわずか五%であった。有権者からすれば「実態解明がされていない」のだから、連座制などを云々する段階には至っていない。これでは、いつ選挙をやっても自民党は惨敗となる。

国民・有権者が求める実態調査は、①所属全議員に対して、②裏金の存在を知っていたか、③その違法性を認識していたか、④自分がそれに関与していたか、を問う調査から始めることだ。

 これを片付けなければ、有権者の関心は政治資金規正法の改正などには進まない。

 この問題に対する首相の対応を「評価しない」は七八%「、評価する」はわずか一六%に過ぎない。これが、ほぼ内閣の支持・不支持に重なっていることを認識しなければならない。

 私は、本書で首相に〝身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ〟と正面突破を真剣に勧めている。

 総裁選挙や総選挙への思惑、個人の名誉心などをかなぐり捨てて、日本の政治に明るい展望を開くため、選挙制度の改革に向って突き進んでほしい。

 

令和六(二〇二四)年四月

田中秀征